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伝統工芸にDXで新風を-工芸士サポート集団 クラウニー様とのコラボレーション-

インバウンド需要が活気を取り戻す昨今、伝統工芸品や、工房見学などの体験型観光が地域産業の収益の柱として脚光を浴びています。

伝統工芸は世界に誇る日本文化でありながら、伝統工芸品を日常生活で使っている、伝統産業に関心の高い20~30代の若者はそれほど多くありません。

職人不足や売り上げの低迷などで、存続の危機とも言える日本の伝統工芸を活性化させようと活動している工芸士サポート集団 クラウニーの鎌滝様に、はつゆめJAPANがインタビューしました。

工芸士の情報発信や商品開発を支援し、社会との接点づくりをめざす-工芸士サポート集団 クラウニー-
代表 鎌滝英之様

【プロフィール】

ものづくり大国NIPPONとしての、工芸品、工芸士、工芸文化の理解の一助となることを理念として2022年に発足。現在、分野の垣根を超えた多くの工房が参加。ワークショップなどを通して職人の支援を行っている。工芸に触れてみたい若者と、工芸を知ってほしい職人が歩み寄るためのコミュニティー形成にも注力している。

クラウニーのホームページはこちら

伝統工芸士の高齢化が進む現状

まずは、クラウニー様の発足経緯を教えてください。

私はクラウニーを立ち上げ、現在代表をやらせていただいていますが、他にも「東京手描友禅」という日本の伝統的工芸品の工房にも所属しています。

そちらの工房には、経済産業省認定の伝統工芸士である私の父がおり、もともと父を支えるために、職人ではない私も工房に入ったのです。

父親がものづくりをする。私が、言ってしまえば事務方をやる。例えば営業ですとか、ホームページを作ったり、SNSで告知したり。場合によってはワークショップや展示会の企画運営とか、イベント会社、旅行会社などにお話を持っていくようなことにフォーカスして動いていました。

つまりは今のクラウニーの前身のようなことをやっていたのですが、他の工房の状況を知るにつれて、もっとこの活動のアクセルを踏んでいこうと思うようになりました。

例えばイベント会社にとっては、1回1回別々の工房と交渉して「ワークショップをやっていただけませんか」「展示はどうですか」と声をかけるのはすごくコストがかかります。

私がイベント会社などに提案する場合も、東京手描友禅に興味を持って頂けることは勿論ですが、「他の伝統工芸についても教えて欲しいです」と伝統工芸品全般に興味があるというお話を頂くことが多いです。
我々としては、以前は友禅のお話しかできなかったので「友禅どうですか」という提案しかできなかったけれど、相手側からすると友禅以外のものも知りたいと。

入口が友禅じゃなかったとしても、例えば「江戸からかみ」(襖や屏風などに貼られる加飾された和紙)に問い合わせがあったイベントがあれば、そこをきっかけに次回は友禅のワークショップをしましょうとか、藍染のワークショップもしましょうかといった工房どうしの協力ができないかと考えました。
それが、クラウニーを立ち上げようと思ったきっかけです。

アクセルを踏んでいくためには多くの協力者が必要で、そのために工芸士をサポートする集団があればよいと考えました。

他の工房さんは、どのような状況だったのでしょうか?

父親が友禅の職人ということもあり、組合ですとか、都内で開催されるイベントなどで話をすることがあります。

他の工芸で言うと、例えば江戸からかみや、地方では九谷焼の方などがいらっしゃるイベントに出席すると、多くがベテランの方々です。
70代、80代の方も多い中で、そもそもそれぞれの職人さんがどういった方か、どういう作品を作っているのかというところがほとんど分からない状態で初めてお会いすることになります。

例えば髙島屋とか三越のような百貨店の展示会に出ていらした職人さんが、一般のお客様とたくさん会えたとしても、次はどこに出展するか、どんな作品が出されるかというのが紹介できず、なかなか後の「商機」につながっていきません。
工房や職人さんに関して調べようとして、経産省や東京都のホームページを見ても、プロフィールが載ってはいるものの、作品紹介や出展実績、販売されている作品はあるのかなどが分からないのです。

「はつゆめJAPAN」の運営母体である台日商事のネットワークの中でも、技術は確かであっても一般的な消費者と接点が持てずに困っている伝統産業、地域産業の従事者の声をよく聞きます。そのような問題に対して、どうお考えですか?

伝統工芸を幅広く紹介して欲しいけれど、職人さんにどうやってアプローチすればいいか、そのルートが確立されていないという業界の構造的な問題点がありますね。
とりわけ、消費者がアクセスする手段が不足しているように思います。インターネットのような、消費者が探すであろうルートに十分な発信ができていない。それが、クラウニーが解決したいと思っている課題です。

工房を横断したクラウニーの活動がスタート

クラウニー様を立ち上げてからの活動は?

今メインでやっているのはワークショップですね。ワークショップの営業を代行して、定期的なワークショップの機会提供というところが一つ。

あとは、職人さん達がイベントに出店される際に足りない人手の提供、つまり現地のイベントのサポートというところに我々が入っていくこともあります。

メンバーはどうやって集めたのでしょうか?

起業家が集うようなコミュニティーで、昨年クラウニーの構想を伝え「やってみたい人いますか?」と声をかけたところ、面白そうだと反応していただいたことが後押しになり、4人で立ち上げました。

クラウニーという団体名は、クラフト(craft)とランニング(running)をつなげた造語です。
runningは「運営する、マネジメントする」という意味で使っています。

発足後、web上の募集掲示板や口コミで集まる人が増え、活動を続けてもらうことで団体が軌道に乗ってきたところです。

「はつゆめJAPAN」にもボランティア募集を載せていただいていますが、皆さんボランティアで入られるのですか?

はい、全員フルボランティアで活動しています。職人さんから謝礼とか手数料も一切もらっていないのです。

私がクラウニーを立ち上げたきっかけが、経済性だけを追求するのではなくて、社会性を兼ね備えて、社会に価値を還元しながら活動していこうという思いだったこともあるので、その趣旨に共感した方に入っていただけていると思います。

メンバーにとっては、伝統工芸士の方との距離が縮まること。普段イベントを運営する機会がない人も主催者側に入れる。
学生や就職活動中の人には実績づくりになりますし、若手社会人の人なら自分の社内だと社内決裁とか意思決定っていうところに関われないものが、クラウニーだと自分の思った通りのことができるといったところを動機に活動していただけているようです。

デジタルネイティブな世代を、伝統工芸を支えるチームに巻き込む

ワークショップの次の打ち手は、何か構想していらっしゃいますか?

ワークショップイベントというのはあくまで一過性のものであり、それをフックに商品の販売とか、工房見学や体験などにつなげてファンを増やしていくのが望ましいです。

その手段として、ホームページやSNSのようなネット上で、それぞれの職人さんが伝統工芸士であることをしっかりと認知してもらい、消費者との関係に継続性・一貫性を持たせることが必要です。
イベントとデジタル的な活動を組み合わせた形で支援の幅を広げるというのが次の段階です。

工房の職人さんは、皆さん一人で頑張っていらっしゃいます。打ち込む対象は伝統工芸”ものづくり”だけ、それでいいと思います。

いろいろな職人さんのホームページを作ったり営業支援をしたりすることを見越して、伝統工芸を周辺から支えることに興味がある人、普段からSNSを使い慣れている世代の人たちにもっと仲間になってもらいたいです。

インターネット上のプロモーションを担ってもらいたいということでしょうか?

実態としてはプロモーションに行く前の土台作りから始める必要があります。

まずは職人さんたちに目先の売上を何とかつかんでもらいたいので、ワークショップで収益を上げてもらうことを優先しています。

職人さんはデジタル(HP等)に慣れていない事もあり、また個人事業主に近い方が多いので、ホームページの費用を「投資」するというところや、その費用対効果に必ずしも理解が得られるわけではありません。

越境ECというキーワードも挙げられるようにはなってきましたが、そのセミナーに出てまで取り組むとなると、ハードルが高いのです。

外国の方に工芸品を買っていただくという点に、職人さんも興味をお持ちなのでしょうか?何が売れるのか、どういうサイトを利用するのか、説明文や決済はどうするのか、海外発送はどうするかなど、疑問が多いのではないでしょうか?

興味は持っている職人さんはもちろんいらっしゃいます。しかし、職人さんはものづくりが専門であって、どのように進めていけば良いか?を突破するのは容易ではありません。

自治体等で開催される越境ECセミナーとしては、配送、海外のバイヤーの紹介などというケースが多く、我々でも簡単に理解するのは難しいです。

自治体等の取り組みでうまく回っているところはもちろん活用をお勧めして、たとえば越境ECのウェビナーに入れたら話が聞けるのであれば、接続をお手伝いしましょうといったIT支援を行うのがクラウニーの役割の一つだとも考えています。

自治体からホームページ開設補助が出たとしても、費用をゼロにすることはできません。
仮に初期費用無料のネットショップに出すために、我々が無償で制作をやったとしても、その商品が売れた手数料が10%ほどかかってしまうと躊躇する職人さんもいます。

レンタルサーバー代やネットショップ利用料などの実費が発生する場合は、職人さんに負担して頂きます。

勿論、有償のものと無償のものの違いはクラウニーでしっかり説明を行います。

クラウニー のメンバーは様々なスキルを保有されていますが、デジタル関連に強い方がこれまで少ない状況でした。
ですので「ホームページを作りましょうか」というところを、まだそれほど多く支援出来ていないでした。
最近、デジタル関連に強い方が増えてきた事もあり、少しづつ動き始めたところです。

ハードルを下げるためにCreema、minneなどハンドメイドのモールに誘導させていただくこともあります。

それぞれ特性などありますので、その辺りはクラウニーで説明を行ったりしています。

例えば、メルカリのようなもので販売する場合は、そこで作品販売に力を入れるというより、友禅のキットのような比較的低単価で、サービスとマッチしそうな道具から始めていくなどです。動画で作り方を解説するコンテンツなども組み合わせれば、タッチポイントが広がるはずです。

ECサイトやモールも運用が必要ですし。個店に近い形になります。

クラウニーとして総合商店みたいな形での販売などは将来像にもあります。

友の会でもなく、雇用でもない、伝統工芸への新たな関わり方をめざして

情報発信支援の実績は、もうありますか?

私の父が所属している東京手描友禅の「隆生工房」のサイトが形になっています。
ホームページとECサイトを運用しています。

隆生工房のサイト・オンラインショップはこちら

これをモデルケースにして他の工房に話し、いくつかの工房でプロジェクトが動き出しています。

独自に設計してフルスクラッチでWebサイトを構築するケースはなく、「Wix」のようにテンプレートをカスタマイズするだけの簡易ホームページや、SNSを使って情報発信を始めるというパターンが大半です。

ボランティアメンバーのコミュニティーのほうはいかがでしょうか?

今、在籍メンバーが40名余りいるのですが、ボランティアと言う特性上と”工芸品”と言う未知の領域が多く、活動がスムーズに進んでいないかも知れません。

実際のところワークショップ支援の人気が集中しており、その後の一貫性の流れをつないでくれるアクティブメンバーが少なくて、どんなプロジェクトをやるにしても人的リソースが足りないというのが目先の課題ではありますね。

ですが、現在は活動の方向性の整理を行い活動の見える化を進めていますし、プロアクティブに動いて頂ける方が増えてきましたので、色々なものが動き出していると実感しています。

メンバーは伝統工芸・ものづくりのファンであるという意味ではお客様的な側面もあるものの、むしろ構成員としての期待が大きいです。
いろんな人を呼んで、できること、やってみたいことがあれば手をあげてもらえませんか、という形にしているわけです。

友の会でもなく、雇用でもなく。そこはなかなかマネジメントが難しいところではあるかなとは思っていますが、創作意欲の高いユーザーを集めて、我々独自の共感マーケティングをどれだけ完成させられるか、挑戦してみたいです。

高校生で「どうやって伝統工芸士になれるか」と興味を持っている生徒さんもいます。その生徒さんたちと職人さんの接点を持たせることで、子どもたちの将来も応援したいです。

「はつゆめJAPAN」の読者には、外国人留学生も、日本文化紹介に興味をお持ちの方もいます。クラウニー様に興味をお持ちの方に対して、ひとことお願いします。

クラウニーでは、我々がどういう団体で、どういうきっかけで始めたのか、どういう未来ビジョンを描いているのかといった共感性を重視しています。

入会希望の方とは毎回必ず1人に対し1時間ぐらいwebでお話しさせていただいています。
それは、通常のボランティアより、もう少し自律的な動きをするので、そこのすり合わせをメインでさせていただいているためです。

外国人の方には、ご自分の国との橋渡しに、SNSや口コミといった身近な方法で取り組んでいただけることを期待しています。例えば、気に入った工芸品をプレゼントに選んでもらうだけでも十分な活動です。
クラウニーの中にも英語を話せる方や、中国や韓国出身の方などがいて国際的なので、ぜひ仲間になっていただきたいと思います。

いつ、どの活動に参加したいのか、応募者の側に「選んでもらえる」ような関係づくりをめざしているところです。

最近で言うところのDAOの組織形態と言う形になります。

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