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アーティストと外国人のキャリア支援の融合をめざして!-NPO法人日本アーティスト協会様とのコラボレーション-

15~34歳までの若年層の労働者のうち、正社員率は7割にも届かないのが現状です(2018年現在、在学中の人除く)。外国人留学生については、わずか35%しか日本国内での就職を実現できていないとも言われています。

「夢を追い求める若者がなぜ社会参加できないのか」に焦点を当て、はつゆめJAPANが日本アーティスト協会の宇田川様にお話を聞きました。

メジャーデビューしたアーティストが設立したNPO -特定非営利活動法人日本アーティスト協会-

宇田川哲男 様

【プロフィール】

プロのミュージシャンとして活躍しつつ、副業のアパレル業界でも約8年の実績。フリーランスを経て、イベントプランナー、アプリ開発、デザインなどの事業を次々と立ち上げた。自らのパラレルキャリアの経験から、アーティストのサブキャリア形成や、就職(セカンドキャリア)や独立を支援する日本アーティスト協会を2015年に設立。

日本アーティスト協会webサイト

アーティストのキャリア支援8年目、改めて見えてきたグローバル展開の必要性

まずは、日本アーティスト協会の事業内容を教えてください。

アーティストのビジネスマッチングやキャリア教育、企画事業を柱にしています。
アスリートのセカンドキャリア支援のモデルに近いかもしれません。しかし、アスリートの再就職ほど話がスムーズに進むわけではありません。
アーティストがいくら芸に努力しても、仕事とは認められずに悔しい思いをすることがあります。根性がない、気難しくてコミュニケーションが取れないとか、芸術肌でビジネスには向かないという偏見を持たれることもあります。

「アーティスト人材が、その特性を活かした仕事に就きにくい」という社会課題。それを解決し、社会に役立ち、事業を持っているアーティストを育成・活用したいというのが設立にあたっての思いです。

支援対象者は音楽家をはじめ、司会者、ダンサー、パフォーマーなど表現者全体をカバーしています。「誰が所属している?」と聞かれることがありますが、私たちは企画の立上げと育成を得意としています。個人を取り上げてプッシュするのは既存のエンタメ企業さんにお任せし、私たちはアーティストが活躍できるプロジェクトや仕組みを社会の皆さんと共創する機関でありたいと思っています。

具体的に、アーティスト人材にどのような支援を行っているのでしょうか?

一つは、講師養成です。現役アーティスト兼講師として20~30代で働く土台をつくれるように支援しています。
学んだことをインターン、アルバイトで生かせるよう提携先も開拓しています。

2023年4月にオープンの高卒資格が取れるアーティスト養成所では、必修科目に英会話、国際交流、グローバル教育も盛り込む予定です。

もし日本で売れなかったら、ライバルの少ない場所に行く、すなわち海外進出を早くから視野に入れた方が良いと考えているからです。
例えば、東南アジアのアーティストの動画再生数には、有名無名に関わらず目を見張るものがあります。それだけエンターテイメントが身近な文化なので、チャンスを得られる日本人アーティストもいると思います。

国際感覚はキャリア形成の大きな助けとなります。日本アーティスト協会の海外事業部マネージャーは、日本を飛び出してカナダでアーティスト活動をした後、コロナ禍で帰国。現在はアーティストの海外挑戦の支援のため国内外で人脈とプロジェクトを広げているところで、既にヨーロッパツアー、ジャパンフェスへのキャスティング、大使館イベントの企画運営などの成果をあげています。

私自身も過去にフィリピンのマニラで国際交流フェスを開催したり、JETROを通じて海外のエンタメ会社との商談を行ってきましたが、彼女のようにビジネスレベルの英語でのコミュニケーションが上手ではなかったので、取りこぼしたチャンスも大きいと感じていました。

彼女をマネージャーに迎えた事業部を創設したことでこの課題は見事に解決できたのですが、今後の国際的な展開を視野に入れた場合、語学力と国際感覚に優れた外国人人材にも参画していただくことが不可欠だと考え、協業相手を探していました。

「はつゆめJAPAN」の運営母体である台日商事は、台湾出身人材の就職支援を数多く手がけてきました。

台湾にも、もちろん注目しています。

イメージ

イメージしているのは、東レ経営研究所がグッドプラクティスとして取り上げていた、上海のショッピングモールでのライブステージです。
出演するのはインディーズバンドなので、まだスポンサー企業が付いているわけではありません。そこで、アパレルブランドにライブ当日だけのスポンサーになってもらうのです。
ブランド側は、モール内でステージに出るアーティストに衣装提供をし、ステージに看板などを出すことで観客へのブランド認知や口コミを発生させることができます。

アパレル出身の立場から言うと、実はライブ開催は店舗にとって厄介な問題です。人気のアーティストが来ると来店者がライブに流れて集客が止まってしまうからです。
この宣伝手法を採り入れることで、モールの出店ブランドとアーティストが良好な関係を築き、双方にとって望ましい結果が得られると期待しています。

日本のアーティストを台湾に送り、アパレルブランドにイベント限定のスポンサーシップを提案する。相乗効果でPR事業のモデルが成立すると思っています。

こういった企画の実現には、日本独自のカルチャーで切り込むことも必要だと思いますので、例えば三味線アーティストやアニソンなどの企画も検討しています。

いずれにしても、現地で日本語を話せる人の協力は必要不可欠なので、台日商事さんと一緒に開拓していけたらと思っています。

社会的な人手不足解決のためにも、アーティストの人材活用を実現

台日商事の主な支援領域は飲食店などのサービス業ですが、人手不足が特に深刻な業界と言われています。

高齢化と労働力不足による「2030年問題」ですね。私は人材業にも6年以上携わっていますので、当会のアーティストの人材活用事業によって、このような社会課題の解決も目指したいと思っています。

20代後半~30代のアーティストは約12万人います。芸術家の全体人口が60万人と言われていますが、そのうち12万人の能力を棚卸しすれば、社会の中で有効活用できるはずです。
何十年も置き去りにされている課題なのですが、今こそ解決すべき時だと思います。

日本アーティスト協会の支援実績で言うと、アーティストのサブスキルとしてマーケティング、PR、採用、営業、講師などの資質が評価されています。
人材市場では、広報、セールス、デジタルマーケがトレンドとなっており、これらのニーズのある業界はアーティストと親和性が高いと見ています。

ビジネスマッチングの成果はすでに出ているのでしょうか?

業務委託でライターや動画・HP制作、SNS運用、営業、有名専門学校での講師業など成約実績が出ています。企業側は、スポンサーになるのは難しくても、人手不足を補う戦力になってくれるなら支援したいという意向があります。
一方で、アーティストは自由な時間で働く機会が得られれば、アーティスト活動と副業を長期にわたって両立させることができます。

例えば、インスタ運用担当がいないので、広告を出しても単発で終わって効果が持続しないという課題を抱えている企業があります。
そのような企業に、普段インスタ発信をしているアーティストに月10万円から業務委託できることを提案し、成約が出始めています。

私自身、メジャーデビューしてから他の仕事をした際に、「プロにそんなことやらせられない」「信頼が足りない」と言われた苦い経験があります。
「他の仕事もできるのにやらせてもらえない」というアーティストの気持ちが分かるからこそ、一人一人の強みを生かせるビジネスマッチングを目指しています。

印象的な支援事例はありますか?

ある20代女性アーティストのケースです。サブスキルとしてグラフィックデザインができました。そこでデザイン会社で週4回、アルバイトをするようになりました。
すると、「もう1回アートやってみようかな」という意欲が芽生え、個展を開くほどに。音楽とアートの両方できることが目に留まって、きゃりーぱみゅぱみゅと同じ事務所の新設レーベルと契約することができました。

さらに、講師業もできるようになり、NPOでのマネジメントも経験しました。
舞台経験を生かしてミュージカル出演も叶い、共演する有名人とのコネクションからSNSマーケにも精通するようになりました。

歌・ダンスだけより、実に6本のラインがプラスされたのです。
その結果、以前より倍以上の収入が得られた、何よりスキルアップと関係ないアルバイトを辞めることができたと喜んでもらえました。

ビジネス一辺倒ではなく、NPOとして取り組むことで見える課題

ビジネスとしても成功しそうなのに、なぜこの事業をNPOにしたのですか?

当初は、ビジネスマッチングに特化した株式会社にすることも模索していましたが、事業計画上、黒字化に8年かかることが分かったのです。
資金調達は見込めていたのですが、当時の私は「アーティストが食える職業だと提起したいのに、当の我々が8年間も人のお金で食っていくのは矛盾している」と考え直し、自己資金のみで運営することに決めました。

まずは私自身がアーティストのマルチなスキルを証明する切り込み隊長のつもりで個人事業を立ち上げ、事業会社のコンサルや、教育プログラム作成など、自分のサブスキルが通用することを証明していきました。

組織化するにあたって、働いた分だけ報酬を得られる仕組みが気に入り、NPO法人として起業することにしました。

台日商事も、事業を通じた社会課題解決を掲げている会社です。大企業ではすぐに舵を切れなくても、90%の中小企業経営者から動きを起こそうと。

Z世代は環境問題や働き方など、企業の社会的責任をよく見ています。彼らを見ると、金儲けだけではない事業の在り方を考えさせられます。国際的に見ても社会課題への配慮がない事業は今後難しくなるだろうと感じます。。

私たちの直営の学校、日本アーティスト学院でも、SNSのスキルは必須科目とし、学生に運用してもらいたい企業アカウントを募集します。企業のCSRの一環としてご活用いただければと思います。

同じ広告を出すのでも「NPO経由だと社会貢献になる」という点を活用していただき、周囲の企業にとってもSDGsの受け皿になるような存在を目指しています。

これからのソーシャルコミュニケーションのあり方

コロナ禍の影響もあって、音楽業界は大きく変化しているのではないでしょうか?

私は日本アーティスト協会設立にあたって、音楽業界とは仕事をしないという裏テーマを決めていました。
こう言うと反感を買いそうですが、音楽業界を批判しているわけではなく、アーティストが業界を越えて活躍する土壌を作る必要があると考えていたからです。

実際、ライブの収益は大物アーティストでも黒字化できていないケースが多くあり、大手事務所でも教育事業や不動産業を収益源にしているのが実情です。

また、エンターテイメントの収益の大半は広告や物販によってもたらされていることから、アーティスト個人個人がブランディングやマーケティングをはじめとするビジネスのノウハウを持つことが必須になってきています。

「本質を見極めてアーティスト活動すべき」と、アーティストたちには伝えています。

アーティストと外国人のキャリア支援はリンクしているかもしれない

外国人人材が、アーティストに英語の歌唱指導をするといった直接的な関わりもありそうですが、それだけではありません。
外国人を受け入れる企業、アーティストを受け入れる企業、どちらもスポンサーマッチングの要素が強いということです。
応援したい人材だから、強みを生かせる仕事を与えていく。結果として、離職率が下がり、企業の経営にとってもプラスになるはずです。

また、持続可能な事業を追求し、残った資金は社会貢献に再投資するという考え方も共通していると感じました。

はつゆめJAPANでは、福祉施設や子ども関連事業など、さまざまな施設、団体からのボランティア募集を受け付けています。

アーティストとも、ぜひコラボしたいですね。ただし、プロの線引きはきちんとして、無料奉仕だけにならないようコントロールしていくことが必要でしょう。

学生やビジネスを学びたいアーティストにとっては、経験を積む絶好の機会になると思います。

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